こんにちは!
ブログ上での時系列は少しずれていますが、
10月12日に環境ゼミを行いました。
今回の題材は、「2018 静岡建築茶会」です。
※ 静岡建築茶会について
静岡建築茶会は2016年から3年にわたって静岡を舞台に
開催されています。
各回3名の専門家の方々にお越しいただき、
お茶を飲みながら建築を議論していく会になります。
今回のゼミでは2018年に行われた
2018 建築環境デザインを科学する
~光・温熱・気流とかたちの変化 ~
第一煎 光編、第二煎 温熱編
に取り組みました。
各担当者が発表し、議論し、小見出しを再定義していきます。
以下は今回の議事録になります。
Lecturer A 中川純~建築環境デザインを科学する~ (結梨)
- 建築と作家性を体系的に位置づける
「建築の4層構造」
→デザインの条件を物理性/エネルギー性/社会的機能/記号性の
プログラムに分解し、
これらを建築の様相/プログラム/技術/時間という視点から
多角的に捕まえるマトリクス
歴史を俯瞰するマトリクス
デザイン=技術(構造×環境)×計画×設計 1つも欠けてはならない
これらを統合するためには、美学と共存する技術のあり方考えることになる
「箱の家ではない」独立して最初の設計 小見出し修正案『相似=形、類似=思考』
箱の家そっくりにデザインをした。フーコーという哲学者の「相似=形、類似=思考」の図式において、交わることの価値について述べているが、相似(形)をあえて同じにし、思考の部分を難波設計事務所で学んだ思想と仮定して設計した。
新たな工業化構法を開発し、基礎を作りながら事務員が構造断熱壁パネルを作り、工期の短縮を試みる。
現場で職人の行動を記録、生活者の行動モニタリングを行い、これらの情報を次の建築にフィードバックすることも大きなテーマであった。
[考察] 美学と共存する技術のあり方に則って、形(美学)と思考(技術)を掛け合わせた建築を設計したと考える。人の行動を記録することで、工事効率アップや社会的機能の発見にも繋がり、フィードバックすることは大切。
相似=形、類似=思考において、思考から形を導くことをテーマに設計。
スチュアート・ブランドの「How Buildings Learn: What Happens After They’re Built」は建築をSite(敷地)、Structure(構造)、Skin(外皮)、Services(設備)、Space plan(間取り)、Stuff(家具)の6つのSととらえる。これらは、異なる長さの矢印で表現されており、交差することによる建築の諸問題について扱っている。設備屋さんの断片的な(まとまりのない)工事をデフラグ(最適化・整理整頓)することで諸問題を解決できるのではないかと考え、構造と設備と計画を構法で統合することで形を導き出した。
基礎と躯体工事を同時に進めたあと、内外装の仕上げを終えてから、設備工事をすることで6つのSの混在を回避。設備を最後に施工する場合は、構法的な工夫で設備をデザインする必要があり、壁パネルとスラブパネルの関係は、設備配管を一筆書きできるように配管し、かつその関係がプランにも反映できるシステムにした。構造と設備と計画を統合することで開口部の外側に設備の配管が通るデザインが導かれた。
[考察]思考から形を導くことは、デザインにおいて機能性を持ち、合理的な設計ができる方法だと思う。また、施工段階における問題点を解決できる構法は、施工者の働き方に変化が起き、これから重要視されるのではないかと思う。
- エネルギーシステムの一部としての建築
「15A(アンペア)の家」 小見出し修正案『人間の行動とシステム』
イヴァン・イリイチの「エネルギーと公正」にはエネルギー危機を乗り越えるための3つのステップが示されている。1つ目は規制。京都プロトコルやパリ協定。2つ目は産業の転換。プリウスやLED照明。3つ目は制約のある社会の実現。人間の生き方、生活に建築がどう媒介するか。
このプロジェクトは築60年の住宅の改修工事で家族4人が15Aという制約の中で生活をするための住宅。→コンセント1つで生活をするイメージ
15Aは1500Wでもあるため、ある家電と家電を同時に使うならばワット数を小さくする必要がある。発電所は需要に合わせて発電量をコントロールしているため、小さな発電所では電力需要の大きな時しか起動しない。ワット数の最大値が小さい建築を設計することは、発電所の数を減らす事に繋がる。負荷率(発電所の平均発電量を最大発電量で割った数字)は日本では60%くらいで、1%上げると300万㎾ほどの発電所が不要になる。
ワット数を小さくすることは時間の問題でもあるため、人間の行動の概念に繋がり、建築によって人間の行動や時間を操作することがテーマにできないだろうかと考える。温熱環境さえ改善できれば1500Wは超えないと考えられる。電力は自動化できる部分が多いため人間が介在するところと自動化するところを見極めながらシステムを構築する必要がある。
[考察]現在は、建築は人間に操作される存在(人間による冷暖房によって作り出された冷風や熱を逃がさないための性能が建築)であって、温熱環境の改善や制約のある建築に人間が慣れるまでに時間がかかるため、建築が人間の行動や時間を操作することは今のままでは難しいのではないかと考える。
「微気候の家」 小見出し修正案『環境のムラ』
環境のムラがテーマ。3階建てだが、各階がスキップフロアで繋がっているため、上に行く
ほど暖かく、下階は温度が低くなっている。3階にサニタリー、1階に寝室を配置。居住者
自身の身体的な熱特性から外皮性と窓の割合を求めた。冬季の対策として、人体熱モデルを
用いて寝室は15℃以下にならないように、サニタリーは23℃程度に室温がなるように外皮
性能と窓の割合を計算した。次にFlow Designerの逆解析を使って室内に0.3m/sの風が流
れるような開口部の配置と開き方の検討を行った。人間と建築を媒介するものをデザイン
することが大事だと考える。シュミレーションして結果を確認して満足するのではなく、
居住者が建築と主体的に向き合うきっかけをデザインする必要がある。
[考察]住宅は、居住者と建築のどちらも主体であり、人間と建築を媒介するもの(ここでは熱や風)を、シュミレーションなどを使って考えていかなければならないと思う。
- エネマネハウスでの試み
「エネマネハウス2017」 修正なし
ヘーベルハウスの改修。40年前のヘーベルハウスを改修する際に、既存の低断熱の壁の
内外を縫うように高断熱の壁を挿入することでZEHが設計できないかと考えた。
低断熱壁と高断熱壁に囲まれた隙間をロッジアと呼び、エネルギーハーベスト(収穫)するための空間。ロッジアと呼んでいるサンルームは、冬季の天気の良い日は温度が上がるため、内側の高断熱壁の窓を開けるとその熱が室内に流れ、温度が下がってきてから内側の高断熱壁の窓を閉めると、居室内が高い温度を維持できていることが分かった。様々な気象条件のもとでシュミレーションし、窓を開閉するべきタイミングを通知するシステムをつくった。電気の使いすぎを知らせる15Aの家で開発した1500W制約システムもアップデートした。また、太陽を勝手に追尾する発電システムや床暖房として水封入層と潜熱蓄熱材を組み合わせたシステムの開発をした。
環境デザインにおいて、シュミレーションは重要なツールだが計測や制御も重要なファクターだと考える。「YUHO(遊歩)]という温湿度、照度、風速、位置情報、アクティビティを計測するウエアラブルセンサーは、環境工学の視点だけでは人間の行動を加味した動的な熱的快適性がうまく表現できないため開発された。不快の判定には、微細な環境の差異から導かれた動的な熱的快適性を考える必要がある。従来は、室温を均一にすることが良いとされていたが、人間の行動を適応能力を最大限に利用し建築計画的な視点から熱環境を考えることで、さらなる省エネを実現することも可能ではないかと考える。人間が自由に動きながら計測したデータに基づいた新しい概念が必要だと考える。
現代は平均的な人間を扱う(PMV)時代ではなく、70億の人間が少しずつ異なっていることに着目し、個人の特性、環境の偏在など建築と人間を媒介するものを考える。
lecture B(葉大)
○lecture C 盧 炫佑「太陽エネルギーの有効活用」 (廣岡)
【OMソーラーが生まれる場所】
・OMソーラーとは、全国の地域の工務店と連携して提供し、豊かな温熱環境を実現して社会に貢献している。
・OSMソーラーシステムという太陽熱利用システム、空気集熱式ソーラーシステムを売っている。
→外気を取り入れ屋根を温めて床を通し室内に入れるため、床暖房と換気が行える。
→類語:太陽熱冷房システム=夏は除湿冷房・換気、冬は床暖房・換気
【日射を取り入れればそれで良いのか?】
・最高の省エネとして、ルーバーを用いて日射量を調節して多くの日射を入れるような形。
→窓の断熱性能が良ければ夜に熱が逃げることはない。
→疑問点:逃げないことによって夏がかなり熱くなるのではないか。
・ガラスでの断熱が可能→ドイツは窓の断熱性能が壁並みの断熱性能になっている。
・太陽エネルギーは光だけでなく熱があり、これが厄介。
→地球には大気という空気層がある太陽光の強烈な部分を遮ってくれるから人間が生きられる。
・風力発電など再生可能エネルギーは太陽エネルギーが起源である。
【OMXによるさらなる挑戦】
・LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)とは
=建設時に排出するCO2を生活しながら回収して減らし、最終的にマイナスにすること。
→マイナスになるのは90年くらいかかるとされている。
・OMX=太陽熱・廃熱利用冷暖房換気給湯システム
→補助熱源が必ず必要で、これが普及しない問題の一つとなっている。
→住宅には面積やコスト面であまり適用できない。
→太陽熱と併せて空気熱を利用する。
→PVT(=太陽電池から15%発電した残りの85%にもなる熱を回収して暖房に利用する)を活用することで、太陽エネルギーを最大限に利用することを考えている。
→エコキュートの場合は朝に満タンとすると夜使用するまで損し続けるが、OMXの場合は昼間に温めて夜に満タンにするため、損しないような工夫を盛り込んでいる。
→通常は冷房時に室外機から熱い空気が出ているが、空気熱を利用してそのままお湯に溜めることで熱い空気を出さないことを実現している。
→エアコンのように一定温度の制御ではなく、幅を持たせたコントロールをする。
○discussion 中川 純×谷口 景一郎×盧 炫佑
【普及に向けた技術的挑戦】
・質問「技術の進むべき方向として一般化と先鋭化があるが、どこへ向かおうとしているのか」
→シミュレーションを色々な人に使ってほしい、プレーヤーを増やしたい。
→ラフなシミュレーションは設計者自身がやって、後半の細かいところはプロフェッショナルがやればよい。
→コンセプトからディテールまでの一通りをシミュレーションで検討することを意識している。
・3DCADなどのツールを使用する時に重要になるのが、何のために三次元モデル化するのか。
→シミュレーションのために、どのレベルの三次元モデルを使うべきかを伝えればシミュレーションがもっと使われる。
【施工現場とのすり合わせ】
・環境建築の次のステップは、どう工法と統合していくか、具体的にはどのようにパネル化するかが重要
・気密は意匠設計者の精度、ディテールへの細かな目配りが必要でモデル化しないようなところで性能を担保している物件が多い。
【コミッショニングの確立に向けて】
・質問「職能として、第三者の立場が日本でこれから成立するのか、それとも設計者が高いリテラシーで施主に提案する関係を目指すべきか」
→設計者自身が竣工物件に出向いてPIDなどの各変数を調整するのが一番
→コミッショニングの専門職にお金を払うことが施主にとってメリットがあるという文化が根付くと良い。
→今後ZEBも含めて法規則からのアプローチも必要になる。
・研究社者が省エネや設備容量の低減を提唱しても、ゼネコンはクレームがあるから二倍くらいの設備容量を設置する。→これを改善しないとコミッショニングは実現できない。
【一般解と個別解の問題】
・質問「どれだけのアジャストを用意しているのか、測るデータの蓄積は研究レベルでどのくらい進んでいるのか」
→アメダス気象データからシミュレーション向けに拡張アメダスを作り、
これをシミュレーションに使うことでシステムや機械の制御に外気温や室温を取り込めるので、メンテや不具合の発見に利用できる。
・風のシミュレーション化が難しい→経験則で測るので一般化難しい
【個別の人々、個別の建物】
・工業性の高い方向に踏み込むとき、建築主の覚悟が必要だったり利用者の存在を意識したりしないといけない。
・長い時間の中で、人間の意識と無意識にどのような揺さぶりをかけるか、環境の先には時間軸を伴った心の問題がある。
・質問「建物をどうより使い倒していけるのか」
→この問題は、どのような改善が見込まれて、そのとき室内環境はこうなるという予測が立てやすい
→個別の感覚を越えた一般論としての省エネや快適性の改善を図るのであればシミュレーションを使いやすい。
・質問「停電などを取り入れた建築環境について」
→発電所と建築の関係は大きなテーマ
→原子力のベース電力+火力で調整する供給量調整型モデルから、建築側が発電所のダイナミックな発電量に合わせて需要を調整するデマンドスポンジにシフトしつつある。
→個別分散の協調制御に技術がシフト
・シミュレーションの活用で重要なのは、どこまで結果の絶対値を追求するか。
・設計段階のシミュレーションでは一つの解析結果だけで判断するのではなく、複数ケース
のシミュレーションを繰り返すことで傾向つかむ使い方ができるといい。
【考察】
太陽のエネルギーには人が生活するうえで必要なものがある一方で、人に害をなすものがあるので、その害のあるエネルギーをどのように排除して活用していくかが大事。
今後はシミュレーションを多用していく時代になっていく中でAIが進歩していくと、建築の中にもAIの技術が到来すると思う。そこで人はどのようにAIと接していくかが大事だと思う。
第二煎
〇lecture A (矢作)
【lecture B】 (山本)
〇建築環境の源流…「計画原論」・「設備工学」の2つの流れがあった。
アカデミック↔民間
・「計画原論」…アカデミックで発展した。
環境の調整手段は「形体」…フォーム
渡辺要…建築計画原論の創始者。音や光を体系化した人。
「物理学の力学を除いた部分はすべて自分の領分だ、計画原論の領域だ」
『計画原論』…渡辺要先生、長倉謙介先生の著作。
・「設備工学」…民間レベルで技術が発達した。大正時代に産・官・学が連携して分野を盛
り上げる機運が生まれる。
環境の調整手段は「形態」…フォーム+システム、機械力
考えたこと:一口に環境デザインといっても種類があり、偏りがある。形と設備の両面から
環境をデザインすることが必要である。
〇人の動きの可視化
・環境分野は設計と現実が合わなくても大きな問題ではないとされている。
なぜか?
A.人間の動きは確率的な部分が大きく、完全に予測できない。
人間の個性は無視されるから。(例:PMVの根拠は世界各国の老若男女のデータの
平均値。)
・Occupant Behavior Model…人間の行動モデルをたてて、人間をエネルギー予測に組み込
む。それにより建築・設備の性能が変わる。→省エネルギー
考えたこと:予測が難しい人間の行動を、モデルをたてることで解決する手法は革新的であ
ると思った。建築が省エネでも使い方が省エネルギ―でなければ意味がないと
いうことを改めて理解した。
〇「快」と「適」の違い
・「適」…温熱環境が一定の範囲に収まっていること。建築環境の人が好き。オフィス空間。
・「快」…不適なところから適に向かう動きのこと。快が成立するためには不快が必要。
建築デザインの人が好き。不均質な空間。Delightな空間。住宅。
考えたこと:空間の性質をつくる物は光や素材、空調、開口など様々あるが、空間の快適を考えたときには温熱環境が空間の質を変える。快が不快とともに存在するということに驚いた。