wakisaka lab@Shizuoka Institute of Science and Technology

静岡理工科大学 建築学科 脇坂圭一研究室

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2021.11.08  論文ゼミ/読書ゼミ

こんにちは。脇坂研究室3年生の塩澤侑杜です。

2021.11.8のゼミは前半「論文ゼミ」、後半「読書ゼミ」を行いました。

 

前半はM1の千葉先輩の修士論文の進捗報告についてです。

千葉先輩は「在宅支援型小規模多機能型居住介護施設の利用実態に関する研究」(静岡県浜松市を対象として)というテーマで研究をしています。本来の小規模多機能の目的でもある在宅での生活水準を向上させるために3つのサービスを効率よく運用している在宅支援型の利用実態を目的とし、その上で小規模多機能が福祉政策の核となりえるのかを考察するという内容です。

それぞれ施設のプランを再度分析し、導線や家具の配置などをプランに記入することや、アンケート結果を踏まえた考察の仕方などを協議しました。来年に論文を控えている私たち3年生にとっては毎回学ぶことが多く、研究のテーマや調査方法などの参考にしていきたいです。

 

 

後半は今期第2回目の「読書ゼミ」についてです。

今回の読書ゼミではSD選書 ロバート・ヴェンチューリ著 「建築の多様性と対立性」という本を脇坂研究室の皆で議論していきました。発表担当は3年生の築地楓君です。

 

この著作では、建築を学ぶ上で必読の書として1章から11章にわたり、建築の多様性と対立性を数多くの事例とともに、あらゆる角度から見つめ、建築のデザインをどのように読解するかという方法を提示しています。

 

「対立性とは、建築を「かた」から「かたち」にするために必要な、ある種の「崩し」のようなものなのではないか」という最初の質問に対し、「「かた」をそのまま建築化するのではなく、規則正しく作られたサーキュレーションの一部の秩序の一部を乱すことで、より多様性を持つ空間を作ることができると思う」という築地君の回答から、各章で語られている多様性と対立性の議論へ発展していきました。

 

以下は議論の大まかな内容です。

 

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読書ゼミ議論内容


 ●  建築における曖昧さ、緊張とは何か?

→曖昧さと緊張はセットで考え、用途や空間の機能としての怪しさを表現するために使われる言葉ではないか。

→この著作は構造やデザイン、材料をまとめて表現しているから難しい。曖昧の中に緊張があるのではないか。

→感情的な緊張と空間的な緊張の2つがあるのではないか。常に建築には2つの見方がある。「内部と外部」「形態と実態」「抽象と具象」のように…それを包含して多様性と対立性と読んでいる。

 

  • 秩序の形成とは何を指しているのか?

→不整合をもとにして秩序を形成するのではないか。

→「かた」から「かたち」にするための「崩し」という操作に近いのではなか。

→建築における空間の秩序には、暗黙の領域がある。文化や歴史における秩序や、グリッドや構造などの形式を表しているのではないか。

 

→この表現もコルビュジエのある種の「崩し」であると考える。規則正しく整列した厳格なXY軸から逃れるための表現なのではないか。

 

  • 「より少ないことはより多いことだ」の意味について

→複数の要素を取りこみ、統合させることで全体性を保たせることが重要である。ベンチューリは多様性を好み削るのではなく、組み合わせることで要素を少なくさせる。

→断片的な関心にとどまってしまわずに、常に全体に対する見通し持たなければならない。

→単純性とはどこまでが単純性に入るのか、要素を捨て単純化させることは間違い、複雑な要素を加味したうえでの形が単純性。

 

  • 絵画風(ピクチャレスクネス)とは何か?

→なんの意図もなしに屋根を大きくする、形で遊ぶなどの自己表現をするのが絵画風なのではないか。表現主義の一種。

 

  • 並置された対立性とは何か?

→「並置」という表現は「調整」されたの言い換えである。

混ざり合った用途地域、グリッドに対し、エレメントを斜めに差し込むなどの部分的に違う要素を差し込むことを「並置」という。7章で紹介された調整された対立性に近いものを感じる。

 

この著作ではモダニズム建築の特徴である合理主義、機能主義的な考え、引き算の建築によって単純化されたものに対して問いかけを行っていました。一方、簡素であることが全て一貫性を持たない建築ということではなく、簡素の中にも多様性と対立性を含んだ複雑なプログラムからなるものだと考えます。また、建築を複雑に部分的な要素に分けるだけなく、それらを合理的に統合させることが、建築の設計において必要になるものだと考察します。

 

様々な社会問題を抱える現代の中で、建築家の自己表現的な意思が先にくると、一貫性を持たない建築が増えてしまいます。ただ単に美しさやかっこよさなどの表面的な思想だけを考えるのではなく、建築の内と外に存在する多様性と対立性をうまく重ね合わし、統合させ、全体性を与えることで、一貫性を持った建築へ近づくのだと感じました。それを踏まえ、今後も自分の中のマニフェストから空間を作っていきたいと思います。

 

f:id:wakisakalabsist:20211121015025p:plain(執筆者:3年 塩澤侑杜)